資料の概要


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武蔵野大学に寄贈された伊藤延男資料は、現在、有明図書館と武蔵野キャンパスに保管されています。これまでの調査から、その内容は以下のように推定されています。

表1 伊藤延男資料の推定冊数(2018年調査)(注1)
1) 図書・雑誌 23,695冊
2) 報告書 2,590冊
3) ⽂ 書 3,115薄冊
4) その他 280冊
合 計 29,680冊

1) 図書・雑誌
図書・雑誌には、和書の他、欧米諸国の洋書、中国書等の外国語文献が数多く含まれます。建築、美術工芸、考古、歴史分野を中心とした一般刊行物や博物館・美術館の展覧会図録に加え、国際会議のプロシーディングスや学術雑誌の抜き刷り、ニュースレター等のいわゆる灰色文献も多く、なかには書き込みや付箋、メモ等の挟み込み文書も散見されます。

2) 報告書
国宝・重要文化財・登録文化財等の文化財建造物の保存修理、移築、整備工事等に係る各種報告書、史跡・名勝・埋蔵文化財の発掘調査、遺跡整備等に係る各種報告書、その他の調査研究報告書が多数含まれています。おそらくご存命中のこの種の報告書の大半が揃っているものと推定され、一式の資料としては国内有数の存在と思われます。青焼きの大判図面や戦前の報告書も含まれています。ただし、なかには劣化の状態の著しいものもあり、これらの保存処理も課題となっています。

3) 文書​
個別の、またはファイルや封筒、クリップ等でまとめられた文書類には、各種委員会・会議資料や書簡(海外専門家、特にUNESCOやICOMOS関係者の書簡には伊藤先生による和訳が添えられるものが多い)、各種原稿(英語原稿多数、チェック用の途中段階を含む)、東文研所長時代の研究所資料、カタログ類、調査書類及び写真、神戸芸術工科大学時代の講義資料等も含まれます。

他方、令和3(2021)年に東京文化財研究所に寄贈された資料は、文化遺産国際協力センターによって整理され、目録(注2)が刊行されており、以下のように分類されています。

表2 東文研伊藤資料の編成(引用元:金井2022)(注3)
年代域 1947〜2015
シリーズ1​文化財保護関係:国内 343点
シリーズ2​文化財保護関係:国際 375点
シリーズ3​研究活動 750点
シリーズ4​民間活動 124点
シリーズ5​執筆原稿 166点
シリーズ6​図 書 325点
シリーズ7​写 真 102点
総点数​​2,185点

これらは、武蔵野大学が所蔵する資料と本来一体のものであり、両者を合わせて全体像を捉える必要があります。東文研の資料との比較から、武蔵野大学が所蔵する資料の特徴として、次の点が挙げられます。

■ 報告書の充実
東文研の資料には報告書類は10 数冊しか含まれていない一方で、武蔵野大学の資料では、その蔵書を占めた報告書のほぼ全体を確認することができます。両者を合わせれば、日本の文化財関連報告書の全貌を捉えることができ、まとまりをもった資料群として高い価値を有しているといえます。

■️ 東文研所長時代の書類群
伊藤先生は昭和53(1978)年から昭和62(1987)年にかけて東京国立文化財研究所の所長を務められましたが、当時の資料は東文研の資料には殆ど含まれていません。反対に、東文研の資料に多く見られる文化庁時代の書類(重要文化財指定説明等)やICOMOS関連書簡は、武蔵野大学の資料には少ないようです。

■️ 博物館設置・運営に係る各種委員会資料
博物館設置・運営に係る委員会資料に関しては、東文研には民間の委員会(明治村、成巽閣等)、武蔵野大学には公営博物館の委員会(名古屋市、弘前市等)が多く含まれており、両者を合わせることで、その全貌を把握できると思われます。伊藤先生は名古屋市美術館(仮名称時)の建設委員会委員長を務める等、国内の複数の博物館設置時の検討に関わられており、それらにまつわる資料も散見されることから、建築史学のみならず、博物館学の領域においても貴重な一次資料ということができます。


1. 20箱の内容から700箱分を推定したもの。
2. 東京⽂化財研究所⽂化遺産国際協⼒センター『伊藤延男資料⽬録 The list of the Dr. ITO Nobuo library』2022年3⽉
3. ⾦井健「東京⽂化財研究所所蔵伊藤延男資料の概要とその特徴」『⽇本建築学会⼤会学術講演梗概集(北海道)』2022年9⽉:487-488

【以上の資料の概要は、佐藤桂、宮下貴裕、高橋奈緒「伊藤延男資料にみる戦後日本の文化財保護の歩み」一般社団法人日本建築学会『歴史的建築データベースのこれまでとこれから』(2023 年度日本建築学会大会(近畿) 建築歴史・意匠部門 パネルディスカッション資料)に基づいています。】