経緯と目的
伊藤延男氏ご逝去後の2018年、武蔵野大学で非常勤講師をされていた御次男の伊藤晋二氏より、故人の所蔵資料約3万点の寄贈を受けました。そして2023年、伊藤延男資料アーカイブズプロジェクトを立ち上げ、これらの整理・把握と目録作成に着手しました(注1)。
江戸時代から続く尾張藩作事方工匠の棟梁の家系に生まれた伊藤氏は、戦後日本の文化財保護行政を牽引された行政官であり、建築史学者でした。遺された膨大な資料には、図書や雑誌、報告書等の刊行本だけでなく、それらに附随する書簡やメモ、研究資料、委員会資料等の一次資料や文書類も多く含まれます。
これらの資料群から、伊藤氏の生涯や活動の全容に迫るとともに、日本の文化財建造物保存修理手法を世界水準の中に位置づけていった黎明と発展のプロセスを詳らかにし、それに関連する基礎資料の公開にも取り組んでいきたいと考えています。
経歴(注2)
1925年 | 愛知県生まれ |
1947年 | 東京帝国大学第一工学部建築学科卒業 東京国立博物館保存修理課 |
1950年 | 文化財保護委員会事務局保存部建造物課 |
1952年 | 文化財保護委員会文部技官 |
1961年 | 博士号取得(「中世和様建築の研究」東京大学) |
1962年 | 文化財保護委員会調査主査 |
1964年 | 文化財保護委員会文化財調査官 |
1966年 | 昭和四十年日本建築学会賞受賞(論文「中世和様建築の研究」) |
1967年 | 奈良国立文化財研究所建造物研究室長 |
1971年 | 文化庁文化財保護部建造物課長 |
1977年 | 文化庁文化財保護部文化財鑑査官 |
1978年 | 東京国立文化財研究所所長(~1987年) |
1979年 | 日本ユネスコ国内委員会委員(~1985年) |
1980年 | 仏教芸術学会委員 |
1983年 | 国際文化財保存修復研究センター(ICCROM)理事・財政事業委員会委員 |
1985年 | 古文化材科学研究会評議員 財団法人文化財建造物保存技術協会評議員 |
1987年 | イコモス(ICOMOS)本部執行委員 |
1989年 | 神戸芸術工科大学芸術工学部教授 |
1990年 | 日本文化財科学会評議員 |
1993年 | イコモス本部副会長 |
1995年 | 神戸芸術工科大学名誉教授 勲三等旭日中綬章 |
1999年 | 財団法人文化財建造物保存技術協会理事長 |
2001年 | 財団法人文化財建造物保存技術協会顧問 |
2002年 | 財団法人永青文庫常務理事 |
2004年 | 文化功労者 |
2005年 | イコモス名誉会員 |
2011年 | ガッゾーラ賞受賞(イコモス)(注3) |
2015年 | 逝去、従四位 |
注
- 資料整理は松井⾓平記念財団2022年度(第7回)の研究助成を受けた研究課題「伊藤延男資料の⽬録作成と⽇本の⽂化財建造物保存理論構築プロセスに関する研究」として実施中である。
- 伊藤延男氏の経歴については以下を参照:斎藤英俊「伊藤延男先⽣のご逝去を悼む」『建築史学』第66巻、建築史学会、2016 年3⽉:148-150、⻲井伸雄「物故者(平成27 年)伊藤延男」『⽇本美術年鑑』平成28年版、中央公論美術出版、2018年3⽉: 557-558
- ガッゾーラ賞は3年に⼀度、⽂化遺産保護分野の功績に対して与えられる世界で最も権威ある賞とされる。